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検証11:第2回ウィーン紀行と贋作マトゥシンスキ書簡――

Inspection XI: The journals of the second Viena's travel & the counterfeit letters to Matuszyński from Chopin -

 


12.父ニコラ・ショパンからの手紙?―

  12. The letter from Nicolas Chopin?-

  

  ≪♪BGM付き作品解説 ノクターン 第2番▼≫
 

今回紹介するのは、ショパンの父ニコラが息子に宛てて書いたとされている手紙である。

 

■ワルシャワのニコラ・ショパンから、

ミュンヘンのフレデリック・ショパンへ■

(※原文はフランス語)

1831629日 ワルシャワ

親愛なる我が子よ、私はちょうど今、ショルツさんが親切にも彼自身の手で届けてくれた手紙を受け取った。お前の出発を妨げているのがお前の健康ではない事が分かって嬉しく思っているが、神のご加護あるよう心から祈っている。手紙で、お前が旅を継続させる予定で工面したお金を使ってしまった事が分かったので、少しばかりだがお前が予算外のお金を受け取れるようにするが、我々の状況ではこれが精一杯なのだ。シュタイン氏のところで、お前は450ラインフローリン、つまりポーランドのお金で1800ズロチ引き出したと言っている。私は1200フローリン追加するので、お前はポーランドのお金で3000ズロチ受け取れるだろう。手数料はポーランドのお金で223ズロチ、これは私がルーブル硬貨で払っておいたので、お前の手取りは300ラインフローリンになる。ショルツさんが私に説明したところでは、そうしないとお金を外国に送るのが困難なのだそうだ。なので、親愛なる子よ、お前の資金はあまり多くはないから、ミュンヘンに長期間滞在して少ないお金を費やさぬよう、私はお前の思慮分別に期待している。お前がローマに行けるのかどうか、なるべく早く我々に知らせるように。私は、お前が一人ではなく、クメルスキさんが一緒に旅してくれるのを嬉しく思います。出来る限り節約するようにしなさい、もっとたくさん送ってやる事ができなくて、胸が締め付けられる思いです。お前を心から愛する、Ch.

[アドレス:]

ムッシュ、ムッシュ

ショパン

ミュンヘンへ」

ブロニスワフ・エドワード・シドウ編『フレデリック・ショパン往復書簡集』

CORRESPONDANCE DE FRÉDÉRIC CHOPINLa Revue Musicale)、

及び、「フレデリック・ショパン研究所(Narodowy Instytut Fryderyka Chopina)」より

 

この手紙は、カラソフスキーの時代には知られていなかったものである。

シドウはこの手紙について、「ショパンの父は、フレデリックがウィーンを出発できる日付を知らずに、この手紙をミュンヘンに送っていた」と注釈している。

だが、そもそもこの手紙は本物なのだろうか?

と言うのも、この手紙の日付がどう考えても腑に落ちないからである。

この手紙の日付1831629日」は、前回の「第8便」の日付1831625日」から4日しか経っていない。

いつも説明しているように、「ワルシャワ⇔ウィーン間」は緊急のニュースが届くのですら最短でも片道5日はかかる。それを、一個人が緊急でもない手紙を4日間で届けるのはまず不可能である。したがって、この手紙は前回の「第8便」に対する返事ではあり得ない。それなのに、この手紙は以下のように「第8便」の内容に対応している。

 

■ウィーンのフレデリック・ショパンからワルシャワの家族へ(第8便)■

■ワルシャワのニコラ・ショパンからミュンヘンのフレデリック・ショパンへ■

僕はまったく元気で、そしてそれで万事満足しなければなりません、と言うのも、僕の出発はいまだ遥か遠くに見えるからです。こんな状況にはこれまで遭った事がありません。あなた方は、僕がどれほど優柔不断か、それに、一歩進むごとに僕が障害に遭う事もご存知です。僕は毎日パスポートの事で待たされ、ただ警察に預けてあるものを取り戻すために、アナニヤからカイアファヘ駈けて行きます。僕は今日、僕のパスポートは何処かに置き忘れて見付からないと言う嬉しい知らせを受け取りまして、それで僕は、新しいのをもらうようにしなければなりません。考えられる限りのあらゆる災難が、我々憐れなポーランド人に降りかかるのが不思議です。僕は何時でも出発する準備が出来ているのですが、そうする事が出来ないのです。」

「お前の出発を妨げているのがお前の健康ではない事が分かって嬉しく思っている」

「一昨日、僕達は力ーレンペルクとレォポルトシュペルクに行きまして、クメルスキと、僕を毎日訪れて僕に相当な友情を示してくれているチャペックと共に;彼は僕に、必要なら旅行の費用を貸そうと申し出てくれました…(中略)…

僕は出来るだけ質素に暮していて1クロイツァーでさえ、ワルシャワにいた時の指輪*この指輪はアレクサンダー皇帝が1825年のワルシャワ滞在の際ショパンに贈ったもの。]のように見なしています。あなた方は、あれを売ってもいいですよ、と言うのも、僕はすでにあなた方にずいぶんと経済的な負担をかけてしまいましたから。」

「手紙で、お前が旅を継続させる予定で工面したお金を使ってしまった事が分かった」

 

一番腑に落ちないのは、どうしてニコラがこの時点で息子がミュンヘンに行く事を知っていたのかだ。

いくらなんでも、それが確実である事が確認されない限り、大事なお金を先回りさせてまで送るような真似はしないだろう。

ところが、「第8便」やそれ以前の手紙にも、ショパンはミュンヘン行きを示唆するような事は何も書いていなかった。もちろん「失われた手紙」に書かれていた可能性もあるが、何よりも肝心なのは、それが決定事項として知らされていなければ先回りの送金などあり得ないと言う点だ。だとすれば、まだいつ出発できるか分からないようなこの時期に、それはちょっと考えにくいだろう。

カラソフスキーによれば、ショパンが家族にミュンヘン行きを知らせるのは、ここから約1ヵ月後の720日付の手紙で、それは以下の通りに説明されている。

 

「一八三一年の七月二〇日に、ショパンは同日にクメルスキーと共にリンツ及びザルツブルグを通ってミューニッヒ(※ミュンヘン)に向って出発するつもりだと両親に通知している。彼は達者で、金の用意もしてあると書いたが、永続きのしないことを恐れ、ミューニッヒヘ向けて更に若干金を送ってもらうように乞うた。ここではパリヘ旅立つ金をもちながら数週間滞在しなければならなかった。」

モーリッツ・カラソフスキー著/柿沼太郎訳

『ショパンの生涯と手紙』(音楽之友社)より

 

 

これについて、へドレイは次のように指摘している。

 

「七月二十日にウィーンを去ったと一般には確証されている(カラソフスキの典拠による)。しかしこの記述はすでに六月二十九日に彼の父が「ミュンヘンにてF・ショパン様」という宛名で発送している手紙の事実と一致させるのが難しいのだ。」

アーサー・ヘドリー著/野村光一訳

『フレデリック・ショパン』(音楽之友社)より

 

ヘドレイの解釈では、彼はどうやら後に発見されたニコラの手紙の方を信用し、カラソフスキーの「記述」を信用していないらしいニュアンスで書かれている。

確かに、どちらかを信用すればどちらかは嘘(あるいは間違い)だと言う事になるのかもしれない。

だが私は、事この問題に関して言えば、カラソフスキーが嘘を書いているとは思えない。なぜなら、カラソフスキーが嘘を書く時と言うのは、必ず彼なりに嘘を書く理由があり、したがって何が何でも出鱈目ばかりを書き連ねている訳ではないからだ。私がこれまで検証してきた通り、カラソフスキーの改ざんの目的はただ一つで、それは、ショパンを実像とは違う革命支持者として描く事で自らの国粋主義思想を広く世間に流布する事だった。したがって、仮にカラソフスキーの上記の「記述」が捏造なら、そこには必ずショパンをポーランド的に美化する何らかの意図が見え隠れしていなければならないはずなのだ。だがここにはそんな要素は何もない。したがってカラソフスキーがこの件で嘘を書く理由など何もないのである。

 

私の考えでは、どちらかが嘘であるなら、それはニコラの手紙の方が嘘だろうと言う事で、もしくは、ニコラが手紙の日付を間違えて書いていた可能性も捨て切れない。

 

と言うのも、仮にニコラからの手紙が本物だったとすれば、それは実はカラソフスキーの「記述」における「七月二〇日」付の手紙に対する返事だったのではないか?と、そう考えれば話の流れとしては不自然ではなくなるからだ。

つまりニコラは、手紙の日付を1ヶ月間違え、本当なら「729日」とすべきところを629日」と書いてしまっていたのではないか?と言うものだ。

もしそうなら、一応話の辻褄は合う事になるだろう。

 

 [2012年10月2日初稿 トモロー]


【頁頭】 

検証11-13:愛国詩人ヴィトフィツキからの手紙

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